ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

52 一九七十年の地下雑誌

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 ペーパーバックというかたちでの、雑誌の試みだ。タイトルは『カウントダウン』という。そして副題は「サブタレニアン・マガジン」だ。一九七十年の二月に『1』が出版され、おなじ年の四月と六月に、それぞれ『2』と『3』が出版された。一年に五冊が刊行される、という予定だったそうだが、僕はこの三冊までしか持っていない。三号雑誌に終わったのではないか。
 サブタレニアンとは、地下の、地中の、隠れた、といった意味だ。内容は当時の流行だったアンダグラウンドそのものだが、そうは言わずにサブタレニアンと呼んだ。そしてカウントダウンとは、これも当時の流行だったレヴォリューションの日が来るまでの、それをめざしての思考や行動の日々の、一日また一日の積み重ねのことだろう。
 一九六十年代後半のアメリカで、アンダグラウンド・プレスが各地に生まれた。プレスとは主として新聞という形態を意味した。もっとも作りやすかったからだろう。編集から製作まで新聞社としての機能を整え、新聞と呼ぶに足る内容とかたちを持ち、かなりの部数を販売して利益すら出していたところもあった。だが多くのアンダグラウンド・プレスでは、人も組織もあってなきがごときで、前の号に続いて遅ればせながら次の号をなんとか出す、という状態だった。
 しかしそれゆえに、既成のエスタブリッシュメント(これも当時の流行語だ)からの出版物にはとうていあり得ない、さまざまな魅力が満ちてもいた。主として西海岸で、いくつものアンダグラウンド・プレスを、僕は取材してまわったことがある。古いスクールバスを手に入れて座席の多くを取り払い、その内部を編集部にしてそこに寝泊まりしながら、ピッピーを絵に描いたような人たちが刊行していた『オルフィアス』というアンダグラウンド新聞があった。その新聞に掲載される予定の文章を書き、原稿をいつも持ち歩いているのだが、編集部のバスがいまどこにいるのかわからなくて困っている、と案内役の友人が言っていた。
 一九六十年代後半のアンダグラウンド・プレスから採録した記事、そして当時のアンダグラウンドの書き手に依頼した文章に、イラストレーションや写真を添えて、少なくとも三号までは成立したのが、ここにある『カウントダウン』だ。四十年近い時間が経過したあとであるいま、三冊をとおして読むと、アンダグラウンド・プレスを支えた当時の青年たちがどんなことを考えていたのか、きわめて軽便に知ることが出来る。
 農地に対して使用すると効果絶大である除草剤が開発されたことによって、農地の雑草取りという底辺労働からすら追い払われて失業した黒人たちを、社会の変貌が次々に作り出していく底辺層としてとらえた論考があったりする。いまの日本も変貌を重ねている。これまでは存在しなかったような底辺層が、確実に発生している。社会が見せる新たな様相は、新たなる底辺層の出現なのだ。
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# by yoshio-kataoka | 2007-01-05 21:06

51 お盆を過ぎて西部劇の三本立て

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 お盆を何日か過ぎたあとの、よく晴れた暑い日の駿河台下で、古書店の店先にルイス・ラムーアのペーパーバックが台に山積みになっているのを、僕は見た。アメリカだけではなく世界じゅうで、その作品がもっとも多く、もっとも熱心に読まれた西部小説作家が、ルイス・ラムーアだと言われている。長編は八十冊を越えている。短編は四百以上ある。八十冊の長編のうち三十一作が、映画になったという。
 店先の台に積んであったルイス・ラムーアを、僕は一冊ずつ見ていった。一九八十年代の前半に、ルイス・ラムーア作品が九十冊ほど、バンタム・ブックスからいっせいに発売されたときのものだ。台の上にある全冊を買っていき、ルイス・ラムーア・コレクションのスタートにする、というアイディアが頭に浮かんだけれど、僕はそれを消去した。コレクションを始めるには遅すぎる。つまりいまここで台の上にあるものをすべて手に入れても、そこから先は少なくとも東京では、どうにもならないだろう。僕が少年の頃から買い続けた西部小説のペーパーバックは、その大部分を何年か前に古書店に引き取ってもらった。そのなかにルイス・ラムーア作品は確かにたくさんあった。
 結局、三冊だけ、僕は買うことにした。写真の被写体にして遊ぶことを考えに入れて、出来るだけ西部小説らしい絵柄となっている表紙のものを、三冊。一冊百円のルイス・ラムーアを袋に入れてもらい、僕は夏の終わりの神保町を歩いた。歩きながら思った。下北沢の古書店で西部小説のペーパーバックをしきりに買っていた子供の頃と、まったくおなじことをいまも自分はおこなっているではないか。「いま手に持っているこの紙袋のなかにあるのも、三冊のウエスタンだよ」と、現在(2005年)の僕は、頭の片隅にいまもいる少年の僕に、呆れながら言ったのだった。
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# by yoshio-kataoka | 2006-12-22 18:18





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