ペーパーバックの数が増えていく TEXT+PHOTO by 片岡義男

50 秋の夕暮れにギル・ブリューワーを

b0071709_13145138.jpg 駿河台下から靖国通りの南側を神保町の交差点に向けて歩いていたら、とある古書店の店先に台が出してあり、その台の端の段ボール箱のなかに、ペーパーバックが二十冊ほどあった。通り過ぎながらちらっと見ると、シドニ・シェルダンやローレンス・サンダースのペーパーバックだった。そのまま通り過ぎようとしたのだが、捨ててあるのも同然のようなペーパーバックすべてのタイトルを見たくなり、僕はそこに足をとめ、箱のなかのペーパーバックを点検した。
 そのときに買ったのがここにあるギル・ブリューワーの二冊だ。『ワイルド』が一九五八年、そして『ザ・ブラット』が一九五七年の作品だ。一九六十年代の前半からなかばにかけて、ギル・ブリューワーの作品を僕は熱心に読んだ。この二冊も読んだはずだ。ペーパーバックの山のなかにいまもあるはずだが、久しぶりに店頭で二冊も同時に手に取ると、まあとにかく買っておこう、という気持ちとなった。だから僕はこの二冊を買った。二百円だった。
 帰宅するために乗った新宿からのロマンス・カーのなかで、二冊を取り出して僕はしばし観察の時を過ごした。二冊あるからには出所はおなじなのではないか、などと思いながら観察すると、『ワイルド』の表紙に内側にスコット・メレディスのビジネス・カードが貼ってあった。ギル・ブリューワーもエージェントはスコット・メレディスだったのか。そしてその名刺の隣には、チャールス・イー・タトル商会著作権部のゴム印が押してあった。文京区江戸川十五番地にあった頃の、同商会だ。僕はそこへ一度だけいったことがある。用事がいったいなにだったのかは、まったく思い出すことが出来ない。
 この二冊は日本語に翻訳されたのだろうか。ギル・ブリューワーはいまではアメリカン・ノワール作家のひとりとしての評価を受けている。一九五十年代の前半から一九六十年代後半にかけて、彼はペーパーバックで多作した。魅力ある悪女の企みに巻き込まれていくアメリカ男のアクションと思考の、一人称による叙述には独特の速度感があった。
 買ったついでにこの二冊をまた読もうか、と僕は急行電車のなかで思った。かつて読んだとしたら、それは三十年ほども前のことだ。読むにしたがって、つまり一人称の叙述のなかへ入り込むにしたがって、かつて読んだ展開をほんのりと思い出したりするのは、読書としてなかなか捨てがたい体験だ。写真の被写体としての面白さは充分にある。だからまず僕はこの二冊を写真に撮った。
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by yoshio-kataoka | 2006-12-18 13:18





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